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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)4129号 判決 1970年10月30日

原告 松田茂男

右訴訟代理人弁護士 山本寅之助

同 芝康司

被告 天筒敏夫

右訴訟代理人弁護士 安富敬作

同 山田正

同 安藤猪平次

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告 「被告は、原告に対し、別紙目録第二記載の家屋を収去して、同第一記載の土地を明渡せ。被告は、原告に対し、昭和三八年一二月一日から右明渡済に至るまで、一ヶ月金三、五〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行宣言

二、被告 主文一、二項同旨の判決

≪以下事実省略≫

理由

一、原告が本件土地の所有者であり、被告が昭和二四年三月二五日同地上にある本件家屋を購入所有して、爾来同土地を占有していることは当事者間に争いがない。

二、被告は、本件土地占有は本件土地の賃借人訴外鈴木との間の転貸借に基づくものである旨主張し、原告はこれを争うので、以下判断する。

≪証拠省略≫を綜合すると、昭和一四年頃、原告の先代松田広太郎(昭和一九年二月一二日死亡により原告家督相続)は、本件土地を含む豊中市本町一丁目二〇〇番地宅地七四坪を訴外鈴木に賃貸し、右鈴木は同地上に昭和一五年から同一六年にかけ本件家屋を含め五軒長屋を建築したが、間もなく本件家屋を訴外原田徳太郎に売却したこと、その際訴外鈴木は、右原田に対し、本件土地については自分から地主に話をつけるので関係しないでくれといっていたこと、その後訴外原田は、昭和二四年三月二五日、訴外生島某を介し本件家屋を被告に売り渡し、被告は同日右原田より売買を原因とする所有権移転登記を受け、同年四月から本件家屋において本屋を営むに至ったこと、また前記訴外生島は、被告に本件家屋の売買を斡施するに際し、被告に対し、地主との関係は大丈夫である旨述べ、被告は、本件家屋買受後、訴外鈴木に、本件土地の地代を引続き原告との間に紛争が発生するに至る直前の昭和三七年一二月分迄支払い、訴外鈴木は右地代を同人が原告から借り受けている他の土地の地代とともに一括して原告に支払っていたこと、訴外鈴木は昭和三九年一二月九日死亡し、相続が開始したこと等の事実が認められ、以上によれば、被告は、本件土地を、原告から賃借していた訴外鈴木より転借し、昭和三九年一二月九日からは訴外鈴木の相続人から引続き転借していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

三、ところで、被告は、右転貸借については原告の黙示の承諾があった旨主張し、その根拠として、原告が本件土地から僅か二〇メートル位の近所に居住していて被告の転借の事実を知りながら、昭和三八年五月頃迄一四年間何等の異議を述べなかったことを挙げるのであるが、原告が被告の転借を知っていたことを認めうる証拠はないので、被告の右主張は採用できない。

四、次に、被告は、時効により有効な転借権を取得した旨主張するので、以下判断する。

一般に、他人の土地の用益がその他人の承諾のない転貸借に基づくものである場合において、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつその用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときは、民法一六三条により、その土地の賃借権ないし転借権を取得することができるものと解しうるところ、前認定の被告は本件家屋を買い受けると直ちに所有権移転登記を得て居住し本件土地の転借を開始したこと、本件家屋買受後被告は引続き昭和三七年一二月分迄の地代を訴外鈴木に支払い、鈴木は同地代を原告に支払っていたこと、及び、訴外鈴木と訴外原田間の売買時の経緯、訴外生島が被告に述べた言辞を考慮すると被告が本件土地の転借を始めるに当たり過失があったとは認められないこと等よりすると被告は訴外鈴木から本件土地の転貸借を受けた日から一〇年を経過した昭和三四年三月二五日頃時効により有効な転借権を取得したものと認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。

五、してみると、被告の右時効取得の援用は理由があるので、原告の本訴請求は、被告その余の抗弁につき判断するまでもなく失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

<以下省略>

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